基幹システム更新(入れ替え)の進め方|システム企画編 — 流れと工夫を現役情シスが解説


「システム企画って、何から始めればいいんだ…」
「企画書を経営層に通すまでの道筋が、まったく見えない…」

システムの更新プロジェクトを任されたとき、最初に立ちはだかるのが企画フェーズです。
「何から手を付ければいいか」が分からないまま、時間だけが過ぎていく。
そんな悩みを持った情シスの方は少なくないはずです。

この記事では、私が会計システムの更新プロジェクトで実際に踏んだ企画フェーズの流れを解説します。
苦労した点・工夫した点も、実体験を交えてお伝えします。
現役情シスのWebライターである私が、現場のリアルをお届けします。

目次

1. システム企画とは?

システム企画の全体像

システム企画とは、業務システム導入前の準備フェーズを指します。
具体的には、以下のような工程を順に進めていきます。

  • 経営戦略・経営課題の確認
  • プロジェクトメンバー選出
  • 現場担当者へのヒアリング
  • ほかの組織の導入状況調査と先進事例視察
  • RFI実施・ベンダー対話
  • ROI・費用対効果の試算
  • 予算取りと経営層への企画承認

一定規模以上の組織で基幹システム更新を伴う場合、企画フェーズに半年程度かかるのが一般的です。

現場メモ

私が担当した会計システムの更新プロジェクトでも、企画フェーズに約6か月をかけました。
長く感じるかもしれませんが、企画に時間を費やすことで、後工程で大きな手戻りを避けられたと感じています。

1-1. システム企画の定義と期間の目安

システム企画とは、システム開発の最も上流で行われる「IT活用の目的や方針を決めるプロセス」です。
業務課題の解決や経営戦略の実現に向けて、どのようなシステムが必要なのか、方針を決めます。

業務範囲が広く、関係部門が多い組織ほど、企画段階で丁寧に設計しておく必要があります。
ここで急いで進めると、要件定義や開発フェーズで

  • 想定していなかった業務が出てきた
  • 関係部門の合意が取れていなかった

などの手戻りが発生し、結果的にプロジェクトが遅延します。

1-2. システム企画で決めるべき3つのこと

システム企画では、最初に次の3つを固めます。

  • 目的:なぜ更新を行うか(コスト削減か、業務改革か、DX基盤づくりなど)
  • スコープ:何をやって、何をやらないか。「やらない範囲」を決めるのが特に重要
  • 体制:誰を巻き込むか。情シスだけでなく、業務部門・経営層をどう関わらせるか

特にスコープは見落とされがちです。
私の会計システム更新でも、過去の会計伝票の移行は「やらない」と早めに決めたことで、ベンダー選定とコスト見積もりの精度が上がりました。

1-3. システム企画が不十分だとどうなる

企画フェーズを軽視すると、後工程で次のような問題が発生します。

  • 経営層や現場のニーズに合わないシステムを作ってしまう
  • 完成しても現場で使われない
  • 関係者間で認識のズレが残ったまま要件定義に進んでしまう
  • 開発段階で手戻りが発生する
  • 開発コストが当初見積もりから膨らむ

逆に言えば、企画フェーズで「どんなシステムを作るか」をしっかり定義しておけば、後工程の手戻りリスクを減らせます。

2. 当社が会計システム更新を行った背景

会計システム更新の背景

私が担当した会計システムの更新プロジェクトは、以下の理由から動き出しました。

  • DX推進:ペーパーレス化推進やリモートワーク対応のため電子決裁の導入が求められた
  • リース期間:5年リースの更新を重ねて約20年使ってきたが、次の更新時期が迫っていた
  • システムの複雑化:長年のカスタマイズの積み重ねで、システム内部が複雑化していた
  • 運用コストの増大:改修コストも年々膨らみ、運用保守の難度も上がった

特にDX推進は経営層からの強い要請があり、急務でした。
当社は紙文化が根強く、稟議・契約処理が紙ベースで回っていたため、「業務効率化」の観点からペーパーレス化が必要な状況でした。

一方で、会計システムは経理・調達・予算管理など複数部門が日々利用する基幹システムであり、当社にとって重要度の高いものです。
更新の判断は重く、失敗すれば業務が止まりかねません。

実際、経営層からはDXが強く求められる一方で、ユーザーである社員からは「システム更新」や「運用変更」が嫌がられ、後ろ向きな意見が大半でした。

現場メモ

特にシステムベンダーが変わる可能性があることに対しての反発は大きく、後ろ向きな意見が届きました。
こうした後ろ向きな社員を巻き込みながら、更新に向かう必要があります。

3. システム企画の流れ

システム企画の7ステップ

ここからは、企画フェーズで実際に踏む工程を順に解説します。
私が担当したプロジェクトでは、以下の7工程を約6か月かけて進めました。

  1. 経営戦略・経営課題の確認
  2. プロジェクトメンバー選出
  3. 「現場へのヒアリング」と「新機能の検討」
  4. 「ほかの組織の調査」と「先進事例視察」
  5. RFIの実施
  6. ROI・費用対効果の試算
  7. 予算取りと経営層への企画承認

それぞれ順番に解説します。

3-1. 経営戦略・経営課題の確認

企画の起点は、組織のビジョンや経営課題の確認です。
「なぜシステムを更新するのか」を経営陣と調整することから始めます。

ここで経営層との認識がズレていると、後工程の判断軸がブレます。
システムを開発するにあたり

  • コスト削減を最優先するのか
  • 業務改革を狙うのか
  • 将来のDX基盤を作るのか

など、システム開発の優先順位を経営陣と共有しましょう。

3-2. プロジェクトメンバー選出

情シス内だけでなく、業務部門からもメンバーを集めます。
当社の場合、システム企画段階では会計システムとの関わりが深い、経理・予算管理・契約事務担当の3名に参加してもらいました。

プロジェクトメンバー間の会議を開催し、プロジェクトの全体像、目的、スケジュール、各メンバーの役割を共有します。
ここから、現場を巻き込むフェーズが本格的に始まります。

現場メモ

会計システムのように会社を横断して使う基幹システムの場合、情シスだけでプロジェクトを遂行するのは困難です。
業務に詳しい職員をプロジェクトメンバーに加えることで、円滑にプロジェクトが進みます。

3-3. 「現場へのヒアリング」と「新機能の検討」

次に、現行の業務とシステムを棚卸しします。
「誰が」「いつ」「何のために」「どの機能を使っているか」を、プロジェクトメンバーや現場担当者と一緒に洗い出します。

同時に、現行システムの課題を抽出し、新システムで改善・追加してほしい機能のヒアリングを行いました。
これは現場担当者に、業務改善の実感を持ってもらうことで、プロジェクトを前向きにとらえてもらうためです。

現場担当者と一緒に「変えたい業務」と「残す業務」を整理しながら、現場の意見を反映した新システムを作っていきます。

現場メモ

具体的に現場から挙がった声と、それに対する対応は以下のようなものです。

  • 毎月の集計作業が手作業で負担が大きい → SQLなどの専門知識がなくても自由に集計できる機能(EUC)を新システムに追加した
  • 特定の補助金を使った事業があり、その案件を抽出したい → 補助金の有無や金額の区分を持たせて、必要な集計ができる仕様にした

3-4. 「ほかの組織の調査」と「先進事例視察」

自社だけで考えていても、視野は広がりません。
ほかの組織の導入状況を調査し、すでに先進的な運用をしている組織には視察に行きました。
この際、システムの機能だけでなく運用も確認するため、経理・予算管理・契約事務の担当者を連れていきました。
詳しくは次章で解説します。

3-5. RFIの実施

ある程度の方向性が固まったら、複数のベンダーに情報提供を依頼します。
これがRFI(Request for Information)です。
今回は2段階で実施し、1回目で大枠を、2回目でより具体的な情報を集めました。
既に付き合いがあるベンダーはもちろん、複数のベンダーに声をかけ、製品情報や導入実績、概算費用を提示してもらいました。
また、RFIに回答いただいたベンダーにはデモンストレーションもお願いし、機能の実物を見せてもらいました。

現場メモ

ベンダーによっては、検証用にシステムを貸与してくれる場合があります。
PCごと貸してくれるケースもあれば、クラウド上で試せるケースもあります。
資料やデモだけでは分からない使い勝手も、実際に触ってみるとイメージがつかめます。

3-6. ROI・費用対効果の試算

導入コスト・運用コスト・期待効果を数字に落とし込みます。
システムを更新することで見込める効果を試算し、経営層や経理部門に説明できるようにしましょう。

ただし、ペーパーレス化のような取り組みは、紙代や人件費の削減だけで計算すると効果が薄く見えがちです。
そこで「計算しきれない価値」も併記する工夫が必要になります。
これは後の章で説明します。

3-7. 予算取りと経営層への企画承認

最後に、経営陣への正式承認を依頼します。
当社では企画フェーズで経営陣への報告を2回実施しました。

  • 1回目:初期の方向性の承認
  • 2回目:具体的なプロセスと費用感を含めた最終承認

2段階に分けることで、ここまでのリサーチ結果(手順・費用・リスクなど)を経営層に具体的に提示でき、最終判断してもらいやすくなります。

4. システム企画で工夫したこと

企画で効いた5つの工夫

ここからは、私が実際に企画フェーズで工夫した5つのポイントをお伝えします。

4-1. 視察では機能ではなく運用を確認

「会計システムをペーパーレス化している組織」を対象に先進地視察に行きました。
視察の際に確認したのは以下のポイントです。

  • 機能確認:電子決裁機能が、実際にどう動くのか
  • 運用確認:電子決裁の前後で業務フローがどう変わったのか
  • 導入難易度の確認:導入時にどんな抵抗があり、どう乗り越えたのか

この中で特に確認してよかったポイントは運用方法です。

当社の決裁は、伝票だけでなく契約書類や図面など添付資料が多く、電子決裁の画面で1枚ずつ確認するのは非効率でした。
視察先はこの問題に対し、決裁前に関係者で内容を合意しておくことで、決裁時の確認を最小限にしていました。

ツールを入れるだけでは、かえって非効率になることもあります。
電子決裁の導入には、運用フローの見直しがセットで必要だと痛感しました。

現場メモ

機能を見るだけなら、ベンダーのデモで十分です。
視察では「運用」と「組織の変え方」の確認が重要です。

4-2. RFI・デモ・他組織調査でリサーチを徹底

リサーチの量と質が、企画フェーズの精度を決めます。
私のプロジェクトでは、3つの方法でリサーチを徹底しました。

①RFI実施(2回)

1回目は大枠の情報収集を目的とし、2回目はRFPレベルの精度で具体的な機能・費用・導入実績を確認しました。

②ベンダーデモの調整

プロジェクトメンバーを集め、実機を見せてもらう機会を設定し、業務部門のメンバーも同席して操作感を確認しました。
情シスだけで判断すると、現場感覚とズレるリスクがあるためです。

③他組織調査

3つ目は、数十の組織を対象にした調査です。
ほかの組織の電子決裁導入状況、コスト、運用形態を幅広く調べました。
また導入済みの事業者様には「導入時につまずいた点」を聞き取り、当社で課題になりそうな箇所を洗い出しました。

現場メモ

リサーチの際は漠然と「教えてください」と聞くより、「運用想定」など、当社の情報を開示したうえで調査を行いました。
聞きたいことや運用想定を具体的に問いかけたほうが、有益な回答が返ってきます。

4-3. 要員会議でメンバーを巻き込む設計

プロジェクトメンバーを集めただけでは、現場は動きません。
メンバーにシステム企画を「自分ごと」に感じてもらう工夫が必要です。

メンバーに積極的に関わってもらうために、私が意識的に行ったことは2つあります。

①新システムの機能追加

1つは、まず現行システムの不満を聞き出し、新システムへの機能追加要望を吸い上げたことです。
「今困っていること」をヒアリングし業務改善のビジョンを与えることで、現場メンバーは自分ごととして関わってくれます。

②丁寧なコミュニケーション

もう1つは、進捗状況を丁寧に報告することです。
「今こういう状況で、次はこう進めます」と双方向のコミュニケーションを心がけました。
情報の丁寧な共有により、メンバーに信頼してもらい、「プロジェクトの一員」と感じられる空気を作りました。

現場メモ

プロジェクトを進めるうえで「情シスが独断で進めているプロジェクト」という雰囲気は好ましくありません。
メンバーに「自分たちのプロジェクト」として関わってもらうことが、システム企画成功の秘訣です。

4-4. ペーパーレスの費用対効果は「計算しきれない価値」をアピール

ペーパーレス化を、紙代と人件費の削減だけで計算すると、費用対効果は成立しません。
当社でも、直接的なコスト削減は限定的でした。

そこで私は「計算しきれない価値」を経営層にアピールしました。
具体的には、以下の4点です。

  • 業務のスマート化(承認待ちの可視化、検索性の向上、改ざん防止)
  • 災害時のバックアップ機能(紙文書は焼失・水損リスクが高い)
  • 属人化の排除(「あの書類どこ?」が組織から消える)
  • 将来のDX基盤(電子データがないと、リモートワークなども難しい)

経営層には「DX化を進めるための基盤として、会社全体のスマート化に不可欠だ」という趣旨で説明を行いました。

現場メモ

費用対効果は、定量化・数値化できる効果だけで説明できない部分もあります。
数値化できない価値の共有が、企画承認を通す鍵となりました。

4-5. ベンダーロックイン回避のためデータ移行調査を実施

企画フェーズで難航したもののひとつが、データ移行の問題です。

ここで、現場サイドと情シスサイドで意見が分かれます。

現場サイド

「過去データが使えなくなる」ことを不安視します。
「ベンダーを変えないでほしい」という声の背景にも、この過去データ依存があります。

情シスサイド

ベンダーロックインを断ち切りたいと考えています。
しかし全データの移行を要件にすると、プロポーザルに参加できるのは既存ベンダーだけになってしまいます。

そこで私は、「3-4」で行った調査の中で会計システム更新の経験がある組織に「どのデータを移行したか」のヒアリングを行いました。

結果として、以下のような最低限のデータ移行で運用を行ったことが分かりました。

  • 固定資産データ
  • 取引先データ
  • マスタデータ(社員情報など)

これらデータは件数や項目数が少なく、既存ベンダー以外でもデータ移行が可能な範囲です。
この調査結果を現場と共有したところ、「最低限の移行でも運用は回る」と現場にも納得してもらえました。
こうして、「データ移行は絞ってシステム調達を行う」という判断にいたりました。

移行するデータと、移行せず別手段で参照するデータを整理すると、次のとおりです。

移行するデータ移行しないデータ(代替手段)
固定資産データ・取引先データ・マスタデータ(社員情報など)伝票データ・契約データ(Kintone/Accessで参照)

現場メモ

当社は過去にもプロポーザルを実施しましたが、データ移行の制約から、結局は現行ベンダーしか選べていない状態が続いていました。
結果として約20年同じベンダーを使い続けてきましたが、今回はベンダーロックインを断ち切ることも裏テーマでした。

5. まとめ:システム企画は、現場と経営を巻き込むことから

システム企画のまとめ

今回は、基幹システム更新の「企画フェーズ」の進め方を、実体験をもとに解説しました。

企画フェーズで押さえるべきポイントは、次の5つです。

ポイント

  • 企画フェーズは半年かける前提で、急がず丁寧に進める
  • 視察では「機能」より「運用」を確認する
  • リサーチは自社の情報を開示し、具体的に問いかける
  • メンバーを「自分ごと」として巻き込む設計をする
  • データ移行は絞り、ベンダーロックインを避ける

システム企画は、手順を踏むだけでは前に進みません。
経営層と現場を巻き込み、「自分たちのプロジェクト」として動いてもらうことが、成功の最大の鍵です。

次回は、ここで固めた方針をもとにベンダーを選定する調達編を解説します。